日本の原子力発電が終わっている五つの理由

福島第一原発の事故により、日本の原子力発電が終わっていることがはっきりしました。なぜ終わっているのか、説明します。

1.日本の地理的条件にそぐわない

日本は島国かつ地震国です。原発は常に地震の可能性にさらされています。福島第一原発事故の主要原因が津波ではなく地震による送電線の倒壊であることがわかってきました。地震の揺れによる配管のギロチン破断も脅威です。冷却系統が破断によって損傷を受けた場合、福島と同型の原子炉では一日以内で炉心溶融することがわかっています。また、今回のように原発の事故が起きてしまうと広範囲の土地に影響が及び、数万人から数十万人が避難を余儀なくされ、農業、漁業、畜産業に壊滅的な打撃を与えることがわかりました。日本のように狭い国土で同じような事故が起きれば、国全体が壊滅的な打撃を受けます。日本はアメリカやロシアのような広大な国より、はるかに原発向きではないのです。当然、地震の多い台湾やイタリアも不向きです。イタリアが脱原発に舵を切ったのは賢い選択です。

2.日本の原子力発電は技術が低い

日本の原子力発電は、アメリカから軽水炉を輸入することから始まりました。大前研一氏が、その問題点を指摘しています。

大前研一氏が日立を辞めた理由に東電からの原発開発門前払い」
hhttp://www.videonews.com/on-demand/521530/001858.php

福島第一原子力発電所の事故で東京電力の対応が後手後手に回った原因の1つは、同原発の原子炉を設計したのが日本企業ではなく、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)だったことである。(中略)福島第一原発に限らず、当初の日本の原子炉は、フランスやイギリス、カナダ、ロシアのように独自の炉を開発するのではなく、アメリカのGEとWH(ウエスチングハウス)が開発した原子炉をそっくりそのまま導入するか、設計図をもらって見よう見まねで造ったものなのである。
 とくに東電は、GEを崇め奉っていた。私が日立製作所の原子炉エンジニアだった当時、新しい分野だった高速増殖炉で独自に考えた設計図を持っていくと、それには見向きもせずに、GEのお墨がない原子炉など要らない、と門前払いを食らった。
 日立が技術提携しているGEの設計のままでなければ、東電は一顧だにしなかったのだ。私がわずか2年で日立を辞めた理由の1つがそこにある。せっかく日本独自の原子炉を造るために必死で勉強したのに、結局、GEの技術指導を強いられたのでは、原子炉を設計している意味がないからだ。

開発当初、見よう見まねで作ったのは仕方がなかったとしても、それから40年経った現在、事故の収束がままならないということは技術が向上していないことを示唆しています。かつての原子力技術者
だった後藤政志氏、菊池洋一氏などが原発の危険性を訴えていることも見逃してはなりません。
日本の原発開発は核燃料リサイクルおよび高速増殖炉の開発に重点が置かれましたが、高速増殖炉もんじゅ」は1985年の運転開始以来、二つの重大な事故により運転停止を余儀なくされ、運転が一年以上続いたためしがありません。原発大国のアメリカやフランスですら高速増殖炉計画を断念しているのに、日本がそれに固執しているのは自らの技術力を客観的に捉えられないのでしょう。

また、日本の原発は安全どころか重大な事故が頻発しています(参照:日本の主な原子力発電所事故)。事故原因を見ると単純なミスも多く、管理能力の低さも指摘できます。これでは、高い技術力を誇っているとは言い難いです。
原子力安全委員長代理の住田健二は1995年のもんじゅナトリウム漏洩事故についてこう証言しています。
「(事故は)配管の中の温度計が折れたのが原因でした。熱があるところに、あんな突起物を出せば振動で折れることは簡単に予測でき、テープをはって補強するというのは技術屋の常識です。その基本も、できていなかった。事故のあとに、学術会議の会合で私が報告したら、『原発というのは町工場以下ですね』と失笑されました」(AERA臨時増刊 原発と日本人)

3.日本の原子力発電計画に欠かせない核燃料サイクル高速増殖炉計画が破綻している

核燃料サイクルに反対している河野太郎議員のインタビューがとても参考になります。
http://www.videonews.com/asx/marugeki_free/524/marugeki524-2_300.asx

もともと、日本は1960年代から本格的に原子力発電の開発を行なってきましたが、1970年代のオイルショックを受けて、原子力を将来的なエネルギーの主力と見なし、高速増殖炉計画に大きな期待をかけてきました。高速増殖炉核分裂反応を通じてプルトニウムの量を増やし、その増やしたプルトニウムからさらに新しいエネルギーを引き出すというものです。原発の燃料を輸入ウランに頼らざるを得ない日本が、使用済み燃料からエネルギーを生み出そうという錬金術のような技術です。
しかし、残念ながら高速増殖炉の実用化は一向に進んでいません。高速増殖炉もんじゅ」は1995年、発電を始めた3ヶ月後にナトリウム漏れ事故を起こして15年運転停止。2010年に運転再開した3ヶ月後に原子炉内に機器が落下(設計ミスによる事故)し、現在も運転中止を余儀なくされているだけでなく、復旧担当の責任者が自殺するという痛ましいことまで起きました。2010年の運転再開の時点すら、実用化は2050年以降と発表されていました。

高速増殖炉もんじゅ」運転再開 実用化は順調でも2050年」
http://www.j-cast.com/2010/02/17060262.html

ただ、河野太郎議員によると、高速増殖炉実用化は「2050年まで見通し立たない」のであって、それまでに実用化しないとマズいという願望に過ぎないとのことです。「IAEA核兵器が作られないよう監視するので、使用目的のないプルトニウム保有は許さない。北朝鮮プルトニウム50kg保有だけで六カ国協議になる。日本は40t保有している。六ヶ所村を稼働したら、一年間に8tプルトニウムができてしまう」。
いまは、核燃料サイクルの目的がプルサーマルMOX燃料)に移っていますが、ウランの使用量が一割減るだけなので、耐用年数が一割程度延びるだけです。そんなことのために2兆円もかけて六ヶ所村の再処理工場が建設されているのです。


4.日本の原子力行政と電力行政がゆがんでいて、技術力の低下、安全性の低下を招いている

日本の原子力行政は、国策として批判や検証をはね除けて来た結果、非常に歪んだものになりました。本来ならチェック機能を果たすべき原子力安全・保安院が、原子力推進の立場である経産省にあることもその一つですし、その状態を憂いて新たに設置した原子力安全委員会も全く機能していません。また、1970年代に新規建設の促進のため電源三法などが整備された結果、道路や新幹線建設と同じ利権と化し、立地県の議員はいかに利権が転がり込むことしか考えなくなりました。

さらに問題を悪化させているのが電力会社の地域独占と「総括電価方式」による特権的地位です。電力会社は地域独占の特権を与えられているだけでなく、「総括原価方式」という料金体系により、発電事業が打ち出の小槌のようにいくらでも利益を生み出せる仕組みになっています。なにせ、国によって宣伝費や人件費をいくらでも電気料金に載せることが許され、さらにその3%を利益として受け取ることが可能なのです。いくら非道な料金水準でも、地域独占によって消費者には選択肢がありません。本来ならエネルギー庁が電力会社を監督する立場ですが、エネルギー庁は電力会社と天下りによって癒着しているので、議員が資料を求めても黒塗りのものしか提出しないと言います。「泥棒が金庫番やっている」と河野氏は痛烈に批判しています。

そのような批判、検証ができない聖域を原子力発電業界は作ってしまいました。当然、競争による技術力の向上もなく、安全対策も疎かになってしまいました。その結果が福島第一事故なのです。長年かけて腐敗してきた原子力発電に未来はありません。


5 日本の原発は経済的に破綻する

福島原発の事故以降、日本の原発は経済的に破綻せざるを得ません。次の費用が重くのしかかるはずです。

・新たな安全基準を満たすための補修工事費用
・重大事故をカバーするための保険料
・核燃料の最終処分場建設費用

上記の費用を不当に低くした場合、株主からの善管注意義務違反訴訟なども起こりえます。この三つの費用を負担してまで、原発を続けていく合理的理由はないでしょう。いずれ、電力会社がこれらの負担に耐えられず、原発の国有化案などが持ち上がることが予想されます。